前回の記事では、サイトランスに使われる4つの基本的なベースラインについて書きました。ツイッターで多くの方から反応を頂き、私としても嬉しい限りです。
しかしこれだと皆同じベースラインになってしまいます。そこで、続編となる今回は、サイケのベースラインを魅力的に仕上げるテクニックをいくつか紹介します。
細かく補間して推進力を増やす
これは、Vini Viciがよくやるテクニックです。一般的なギャロップのビートを図式化すると、こんな感じになります。
Vini Viciなんかは、このギャロップのベースの前に、少し弱いベースを2つ挿入します。
実際の曲で確認してみてください。1:40からそのベースラインが始まります。
2つのベースが他のベースと同じ強さだとフルオンっぽい仕上がりになり、少し古風なスタイルになってしまいます。弱めることによって、フルオンとプログレッシブの中間をいく、特有の駆動力のあるベースラインを作ることができます。
個人的には、これこそがVini Viciの人気を下支えするテクニックの1つだと思っています。
グライドでグルーヴを作る
この前の記事で紹介した4つの基本ベースラインは、基本的に「点」で構成されています。点的なベースが高密度で連なっていくことによって、連続的なベースラインを形成しています。
しかし、それとは異なるアプローチでベースラインを構築しようという新しい動きがあります。それがグライドを駆使して得られる波のようにうねるベースラインです。実際の曲をみてみましょう。
このように、今までのサイトランスとは一風異なる斬新なタッチになります。
Modus、DEKELなどの新人アーティストは、このようなうねるベースラインを武器に知名度を上げてきています。しかし、存在感の強いベースラインなので、扱うのは簡単ではなさそうです。
複層化して複雑にする
基本ベースラインの音程は一定であることが原則ですが、それだけで止まらないアーティストもいます。ここで紹介するのは、二層目のベースラインを作り出す手法。
この曲のベースラインを聴いてみてください。ベースラインは1:35からです。
この曲のベースラインを図式化すると、以下のような三層の構造が浮かび上がります。
複雑なベースラインは、全体像が見えづらいため、人を惹きつけて放さない魅力があります。プログレッシブトランスのアーティストたちが好んで用い、研究するテクニックです。
かっこいい複層ベースラインを思いついたら、ぜひ使ってみてください。需要があります。
キックを伸長して奥行きを持たせる
4つの基本ベースラインは「点」です。そのため、工夫をしない限り、ベースラインが広がりを持たず、浅い仕上がりになってしまいます。
それを防ぐための手法の1つに、キックの重低音を延長して持続させる手法があります。図式化するとこんな感じです。
実際の曲をみてみましょう。ベースラインは0:50付近からです。
このテクニックでは、キックを強調する分、ベースラインの存在感が弱くなってしまうデメリットがあります。しかし、曲のテーマや作り出したい雰囲気次第では、むしろ効果的な表現になります。空間性豊かな表現をしたい時に有効な手法です。
パンを効かせて奥行きを持たせる
キックを延長するテクニックと同様、ベースラインの単調化を防ぐ手法の1つです。ベースラインの音を前後左右上下に振り分け、立体的に構築します。
実際の曲をみてみましょう。0:20付近からです。
キック延長と同じく、空間性豊かな表現をしたい時に有効な手法です。しかしこの手法でも、ベースラインの存在感が弱くなってしまうというデメリットがあります。
これを使っている曲はあまりありませんし、キック延長よりもレベルが高い技法だと思っています。
音階を変えてメロディックに仕上げる
空間性を作り出すまた別のテクニックで、章節単位でベースラインをトランスポーズし、メロディーと連動させて動かしていく手法です。綺麗なメロディーを用い、ドラマチックに展開を演出するサイトランスに多い手法です。
実際の曲ではこんな感じの仕上がりになります。2:50付近から。
このテクニックも、ベースラインの複層化と同様、プログレッシブサイトランスを作る勢力の間で人気です。
ベースラインはサイケの質を決めるとても重要な要素です。耳を澄ましてその繊細な工夫を聞き分けるのも、サイケの楽しみ方の1つかと思います。
次回は、これらの手法を活用して作り上げられた優れたベースラインたちを、まとめて紹介します!
アルバム紹介も書いてます。