感情のうねりに身を委ねる【Koan - When the Silence is Speaking】
どうも、Psykeです。
サイビエントを語るならまずは欠かせないアーティスト、Koan。Roeth & Greyという別名義でも活動しており、こんなアルバムもすでに紹介済みです。
今回は少し遡った2009年のアルバムを紹介します。
When the Silence is Speakingについて
Koanは神話を題材にして数多くのアルバムをリリースしていますが、よく登場するのがギリシャ神話です。2009年にリリースされた「When the Silence is Speaking」は、2012年にリリースされた「Argonautica」と並んで、このアルバムもギリシャ神話のシーンを表現した作品になっています。Koanは弦楽器を用いた有機的な上層メロディーが特徴でユニークなスタイルを確立していますが、この時期の作品で特に特徴的なのは膜状に張られた通奏低音で、それによって生み出される海、水の表現が特に映えます。
ではオススメの曲に参ります!
Koan - After the Guiding Venus
「女神に導かれて」というタイトルです。人間、生きていると、その存在を信じていないとしても、何かしら超越的なものに縋りたくなることもあると思います。そして同時に、問題を自力で解決できないことに対して無力感を感じます。それでもなお何かに縋ってしまう。この曲を聴いていると、そんな病的な自己矛盾を抱擁する美しさを湛えた女神が立ち現れます。
Koan - The Island of Deceased Ships
ギリシャ神話における船の墓場といえばセイレーンです。セイレーンはある島に住み着く怪物で、魔術的な歌声で通りがかった船の船員たちをおびき寄せて捕食し、その島の周りは船の残骸でまみれています。この曲で描かれるのはその難破船の墓場の風景。神話から連想されるディストピアンな雰囲気とは異なる優美なオーラを持っているがゆえに、逆に怖いですね。
Koan - Dolphin and Eos
エオスはヘリオスとセレーネの母親に当たるフィギュアで日の出の神とされています。日の出というとキックを導入して太陽の躍動感を描く作品がいくつか連想されますが、サイビエント性が強いこの作品では、洋上近くに太陽が浮かんでいるその瞬間をスナップショットのように切り取り、そのイメージ自体が持つ圧倒的なエネルギーを簡潔に表現しているように感じます。
Discogsをご覧になると一目瞭然ですが、Koanはベテランであると同時にめちゃくちゃ多作なアーティストです。彼らの作品を時系列で掘っていくととても興味深いです。
このアルバムが好きだった方にオススメ