Psykelopedia

サイケデリックトランスやゴアトランスの曲やアーティストをおすすめします。

強くオススメしたいサイケ・ゴアトランスに共通するある特質

それは何かというと「低音が下がっていくやつ」です*1。ベースラインの音程は一定に保つ場合がほとんどですが、一部の作品では低音に音程変化が与えられており、その一部の作品で「共通の下がり方」が導入されています。今回はそれを採用している作品をまとめて紹介しようと思います*2

 

このタイプの低音変化がある最初に出会ったゴアトランスは、おそらくThe Muses Rapt - Spiritual Healingですね。ベースの音程変化に連動する素晴らしい上層音メロディーと、それをぶち壊すように乗せられたアシッドの破壊性の饗宴です。ゴアトランスを体現する作品の一つだと思います。

同じく90年代後半の作品、Jaïa - Maï Maï*3にも触れておかなければなりません。泣き系のオールドスクールゴアの中でおそらく最強のクオリティーを誇る曲で、悲しさと多幸感の両方を同時に抱擁する超常的なものが降りてくるような気がしますね。6:30過ぎからの再点火の部分で勝利を強く引き寄せ、6:50からの上層のメロディーで勝利を絶対的にします。

それから1998年リリースのFuture Prophecy - Sunrise。メロディーを足し引きするだけの実直な曲構成で、曲がりが少なくゴア臭さは薄いですが、メランコリーと多幸感が共存している点はやはりゴアトランスだなと思いますね。先に紹介した二曲は局部的に低音の音程を変化させているのに対して、Sunriseでは曲全体で低音に音程変化を与え、曲を通してエネルギーを維持しています。

Sunriseと似たような直線的な展開の作品として、2013年リリースのNova Fractal - Mass Extinctionがあります。Nova Fractalは紛れもないネオゴアトランスアーティストですが、この曲はSunriseと比べさらにユーロトランスに寄っていったような、曲がりの無い作品になっています。決定力のあるメロディー一本で勝負する真っ直ぐさが好きな作品ですね。

また、リミックスをMedian Projectが手がけています。高音域と低音域を使い分けるMedian Projectの手*4によって空間効果を与えられ、ブレイクからの高揚感は原曲の何倍にも強化されていて、良いリミックスになっています。ぜひ原曲との比較で聞いてみてください。

 

ここまでゴアトランスの話をしてきましたが、プログレッシブサイケ*5でも同じく、下がっていく低音を駆使した傑作があります。

おそらく最初に聞いたこの類の作品は、Yahel - You Feel(Day Din Remix)かなと思います。イスラエルの大物アーティストYahelの曲のオフビート風リミックスで、特筆すべきは曲の後半、4:10あたりから始まる情感豊かなベースライン。去っていく何かを必死に近くに留めようと足掻く、悲壮感の溢れるメロディックダブステップです。オフビートサイケ勢力の中でもDay Dinのボーカル力は突出していますね。

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これによく似た作品で、同じようにボーカルの切り貼りでアクセントを与えたのが、Ranji & Metronome - Down the Roadです。曲全体はオフビートで仕上げていますが、曲の半分あたりから、落ち着いた秀麗なダブステップ調メロディが始まります。このダブステップ部分での断片的なボーカルエディットと重過ぎないベースライン、これがこの曲の醍醐味です。

さらにプログレッシブな方向に踏み出した作品では8thsin - Run for the Hillsがあります。津波か何かでしょうか。とりあえず、自分は何かに追われていて、一刻も早く逃げなくてはならない…サイレンに似た緊張感のある音設計が非常に印象的な一曲の最後の方に、例の低音変化が登場します。

もっと優しい雰囲気の曲もありますね。例えばFlowjob & Novotech - Let’s Reconnect。Flowjobは流動的で温かみがあるプログレッシブサイケを作るアーティストで、コロナで揺れる世界に対して希望的なタイトルを冠したこのトラックには色々と精神的に助けられた気がします。Flowjobは2020年に亡くなってしまい残念です。

そして最後はBubble & Stayos - Search Yourself。弦楽器が得意なBubbleとボーカル加工で中毒性の高いリズムを作り出すStayos、聴く前から相当期待していましたが、その期待を上回るメランコリックで素晴らしい一作でした。サイケでは二箇所サビを設け、二回目を本命にするのが普通ですが、この曲では二回目が控えめかつお洒落です。

 

この他にもCosmosis、Digicultなど、まだまだ追加したい作品がありますが、まずはここまでにしましょう。何はともあれ、オールドスクールゴアから現代のサイケまで幅広く採用されているテクニックであることがわかると思います。感性が固定化されててつまらん!と自分に対して思う部分もありますが、変わらないものの良さを味わうのもいいのではないでしょうか。

 

*1:特有の名称があるのかもしれないが音楽的な知識がないゆえの語彙の悲劇

*2:似たようなコンセプトの記事としてこんなのも書いています。https://psytrance101.hatenablog.com/entry/tracks-to-make-you-cry

*3:この曲が収録されたアルバムも紹介してます。https://psytrance101.hatenablog.com/entry/jaia-blue-energy

*4:ここで言わんとしていることは、こちらのアルバムでご確認いただけるかと。https://psytrance101.hatenablog.com/entry/median-project-in-the-depths-of-space

*5:ここではhttps://psytrance101.hatenablog.com/entry/defining-progressive-psytranceに記載したものの中でマグネティックサイケ以外のものを指す。