ゴアトランスとサイケデリックトランスの違い
多くの方が疑問に思っているようなので、ちょっと記事にまとめてみようと思います。
このブログの表題にもなっているサイトランスは、実はゴアトランスというまた別のジャンルから派生してできたものです。
私自身はゴアトランスに浸かったことはありません。サイトランスで生まれ育った世代の人間としてこの記事を書いています。また、ゴアトランスとサイトランスの違いを記述してきれいに二分することはできません。水に溶けた絵の具のように、互いに互いの要素を含んでいると思います。
それをご承知頂いた上で、内容に移りましょう!
ゴアは体験、サイは音楽
ご存知の方も多いかと思いますが、インドのゴアは、ヒッピーの聖地として賑わいました。ヒッピーたちにとっては、ゴアという場所が大きな価値を持ったのです。ゴアにいるということ、そこで踊るということ、フラッシュモブ的に行われる長時間のライブで何時間も踊り続けること。それこそがゴアトランスの根本的な精神です。
それに対しサイトランスは、ゴアという場所への執着を必ずしも伴いません。サイトランス大国として有名なイスラエル出身のアーティストが多く、イスラエルで勝ち抜いた者たちが世界のステージに登場、各国を飛び回ってギグを展開している、というような状況です。
サイケデリックトランスのベテランアーティストたちはゴアトランスの文化に浸った経験がありますが、若手アーティストではその経験がないということもあります。
ゴアは酔い重視、サイはノリ重視
ゴアトランスは、自分に酔う、世界観に酔うという傾向が強い音楽です。現在のEDMのようなともかくアゲアゲな感じ、感情を塗りつぶすような感じではなく、音楽を通して別の世界へとアクセスするような、精神性の高い、一種逃避的な音楽だと言えます。
一方のサイトランスは、それよりはポピュラーで、大衆向けです。フルオンサイケはまさにアゲアゲの曲ですから、EDM寄り、と言ってしまってもよいかもしれませんね。
LSD等のドラッグが流行っていた当時と比べて、現在はドラッグに対する社会的な逆風が強い時代です。その代替として酒が登場したという説もあります。ゴアトランスは幻覚重視、サイケデリックトランスは酩酊重視と言えるかもしれません。
ゴアは有機的、サイは無機的
ゴアトランスは「有機的」と表現されます。ゴア、つまりインドのヒンドゥー教的な概念の引用が、最もわかりやすい例かと思います。シヴァ、マントラなどのヒンドゥー教の概念の他、土着の楽器を用いた表現、瞑想やドラッグを通して到達できるとされる精神世界をテーマにした曲が主です。
ゴアトランスの創始者とされるGoa Gilは、インドに来てヒンドゥー教に改宗し、自らの瞑想のための音楽を作りました。ゴアトランスはそういった価値観と密接に関わっていたのです。
それに対しサイトランスには、ロボットや科学技術など、工業・人工的な要素を含む、テクノ寄りな曲が数多くあります。宇宙の神秘をテーマにした曲もあり、その点ではゴアトランスに通じる部分も残っています。
ちなみに、このようなテクノ的なサウンドの潮流を生んだと言われるのが、X-Dreamというアーティストです。
ゴアよりサイトランスの方が新しい
ここでいう「新しい」は、時系列的な新しさです。表現としての斬新さとか、そういう新しさではありません。
ゴアトランスはヒッピー文化と共に興隆を見せた音楽です。年代としては、80年代から90年代といったところが最盛期でしょうか。
それに対して、いわゆるサイトランスは、90年代から始まったものです。X-Dreamの登場、そしてフルオンサイケデリックトランスの流行により、ゴアトランスはサイトランスに置換されていったのです。
この時期に多くのゴアトランスのアーティストがサイトランスに転向を始めました。現在は普通にサイトランスを作っているアーティストでも、昔の曲を遡るとゴアトランス調の曲を作っていたりします。
現在、サイトランスの方が主流でゴアトランスは下火になっていますが、今でもゴアトランスの精神を引き継いで優れた作品を作っているアーティストも数多くいます。
最後に
繰り返しですが、ゴアトランスとサイトランスの違いを説明する明確な線引きは、私にはできません。それぞれがそれぞれの中に生きているように感じます。でも、だからこそ、サイトランスとゴアトランス、時代や背景の壁を超えて、両方楽しめると思いますよ!
こんなのもどうぞ。